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木造住宅の耐震診断と補強方法の2012年改訂

耐震診断の基準は定期的に改訂されているのですか。

木造住宅の耐震診断と補強方法の2012年改訂の説明講習会に行ってきました。

前回2004年の改定は「いまいち使えない基準」から「実務に十分使える基準」へ改定されたネット風に言うと【神】改定でしたが、今回もまた振動実験から得られた新しい知見や耐震診断・耐震補強の実務の中で発生していた不都合に細かく対応した【良】改訂といった印象でした。

今回の改訂では、前回の改定時には記載されなかった耐震診断時の調査内容の明記や耐力要素のデータの充実と見直し、学校や幼稚園の校舎など非住宅木造への適用拡大、解説の充実、記号・用語の統一などが行われていますが、実際の木造住宅の耐震診断や耐震補強業務に最も影響する項目は一般診断法の方法1における、「その他の耐力」の見直しになります。

「その他の耐力」とはどういうものかと言いますと、耐力壁以外の耐震要素のもつ耐力で、例えば筋交いや構造用合板の壁、土壁、といった開口の無い壁が耐力壁、ドアの上や窓の上下の垂れ壁や腰壁が耐力壁以外の耐震要素、つまり「その他の耐力」になります。

2012年の改訂前の一般診断法の方法1では、「その他の耐力」を一律に建物の必要な耐力の25%と決めていました。これは全く耐力壁の無い建物でも無条件に必要な耐力の25%の耐震性能を下駄としてはかせてもらっていたようなものです。

耐震診断や補強の実務の中では「現実ではその他の耐力は25%も無いのではないか」とか「開口部を減らして耐震補強するとその他の耐力は減るはずなのに変わらない。この場合、補強により低減を無くすとその他の耐力が過剰にふえているのではないか」といったこ事が問題とされてきました。

これを、今回の改訂では一律25%は廃止として、その他の耐力は実際の有開口壁を拾い出して算出するか、外壁の無開口壁と有開口壁の比率から求めるものに変更されました。元々、精密診断法ではその他の耐力は全て拾い出していましたので精密診断法の精度に近づける改訂が行われた事になり調査や計算の手間が若干増えた事になります。

元々、一般診断法は非破壊・目視検査の耐震診断に使用する事を前提としていて、耐震補強の計画や評価には精密診断法を使う事が原則でありそれは今も変わっていないのですが、あまり耐震設計に詳しく無い方でも補強に使えるように一般診断法による補強計画や評価も認められてきました。診断のみに使うなら一律25%も特に問題は無いと思いますが当初の想定外に一般診断法が補強計画に使われている現状では精度を上げる必要が出てきたと言うことの様です。

同様の理由で一般診断法で補強を行う場合の劣化低減係数の取り扱いも明記されました。

耐震診断員として住宅の耐震診断をする場合、外壁や基礎のクラックなどの写真を撮って診断書に付けて提出するのですが、診断した住宅について補強工事をされる方からの問い合わせで「写真のクラックを補修すれば劣化無しとしても良いですか。」という質問がよくあります。答えはNOなのですが、こういう質問をされる方が一般診断法で耐震補強計画を策定される事に若干の不安を感じずにはいられません。まして大手ハウスメーカーのリフォーム部門の設計さんからこういう質問をされたときはかなりびっくりしてしまいました。

一般診断は非破壊目視による診断を前提としています。その為、隠れた問題まで診断結果に反映する事はできません、そこで例えば外壁にクラックが有った場合はそのほかにもクラックがあると予想する訳です。ですから、見つかった外壁のクラックを補修してもその他のクラックがまだ残っているかも知れない上に指摘のクラックを補修しても直ちに劣化無しとする事ができません。

と何度も説明して、また中々理解してもらえずに困っていたのですが、今回このこともちゃんと明記され「外観上の不具合を補修しただけの場合は補強前の低減係数を採用する。」とされ、「下地材を取り除くなどして詳細に診断を行った上で壁内の補強・補修したとしても、補強後の劣化点数の上限は一般診断法の場合0.9を上限(補強前に0.9以上だった場合はその数値)とする。

と安全側に傾く内容になりました。

これまでも建物の評価点が上がりにくいように安全側に調整してある一般診断法の計算がこの改訂では改訂前よりその他の耐力が少なく見積もられる事が多くなり、補強設計では劣化度を外して評価点を上げ難く基準が改訂されている為に以前より増して補強しても評価点が上がらず過剰気味な補強が行われる可能性があります。その場合は素直に精密診断法で検討してみる方がやはり良いでしょう。


耐震診断の基準は定期的に改訂されているのですか。

耐震基準は最新の知見に基づいて定期的に改正されています。

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